公務員から民間企業への転職を考えたとき、
「公務員を辞めた人は、実際にはどんな業界や職種へ転職しているんだろう?」
と気になる人も多いと思います。
インターネットで調べると、
- 公務員からIT業界がおすすめ
- 公務員はコンサルに転職しやすい
- 営業職なら未経験でも転職できる
といった情報がたくさん出てきます。
しかし、その根拠を確認してみると、転職サイトの体験談や転職エージェントの紹介記事であることも少なくありません。
私自身も自治体から民間企業へ転職しましたが、転職活動をしていたとき、「公務員が実際にどこへ転職しているのか」という客観的なデータは意外と見つけにくいと感じました。
そこでこの記事では、総務省の「令和4年就業構造基本調査」を中心に、公務に従事していた人が、その後どのような業界へ転職しているのかを調べます。
先に結論を書くと、政府統計から分かるのは、
「前職が産業分類上の『公務』だった人が、転職後にどの産業で働いているか」
です。
「公務員から民間企業への転職」そのものを完全に把握した統計ではありません。
この違いは非常に重要なので、統計の見方も含めて詳しく紹介します。
公務員の転職先を政府統計から調べてみた
今回の分析で使用するのは、総務省の「令和4年就業構造基本調査」です。
就業構造基本調査は、国民の就業・不就業の状態を把握するため、総務省が5年ごとに実施している基幹統計調査です。
2022年の調査では、全国約54万世帯、15歳以上の世帯員約108万人が対象となっています。
今回使用する統計表は、次の表です。
総務省「令和4年就業構造基本調査」全国編 表14900
正式名称は、
男女、就業開始時期、現職の起業の有無、前職の産業、現職の産業別人口(転職就業者(平成29年10月以降に前職を辞め現職に就いた者))-全国
です。
統計表IDは「0004008279」で、2022年10月1日現在の状況を調査した結果です。
総務省 e-Stat「令和4年就業構造基本調査 表14900」
この統計表から、
前職の産業=「S 公務(他に分類されるものを除く)」
だった転職者について、現在どの産業で働いているのかを確認しました。
対象となる転職就業者は、推計32万1,100人です。
1.最初に注意したい「公務」と「公務員」の違い
データを見る前に、今回の記事で最も重要な注意点を説明します。
統計上の「公務(他に分類されるものを除く)」と、「公務員という身分」は同じではありません。
日本標準産業分類では、「公務」は国や地方公共団体のうち、国会、裁判所、中央官庁、都道府県庁、市区役所、町村役場など、本来の立法・司法・行政事務を行う事業所を指します。
一方、公務員が働いている職場であっても、事業内容によっては「公務」以外に分類されます。
例えば、
- 公立病院 → 医療・福祉
- 公立学校 → 教育・学習支援業
- 上下水道事業 → 電気・ガス・熱供給・水道業など
のように分類されます。
そのため、今回の統計を、
「すべての公務員の転職先」
あるいは、
「公務員から民間企業への転職先」
と完全に同一視することはできません。
正確には、
「前職が産業分類上の『公務』だった転職者が、その後どの産業へ移ったのか」
を見るデータです。
この記事でも分かりやすさのため「公務員の転職」という表現を使いますが、この点はあらかじめ押さえておいてください。
2.前職が「公務」だった人の転職先ランキング
それでは実際のデータを見てみます。
2017年10月以降に前職を辞め、現在の仕事に就いた人のうち、前職が「公務」だった人は推計32万1,100人でした。
転職後の産業を人数順に並べると、次のようになります。
| 順位 | 転職後の産業 | 推計人数 | 全体に占める割合 |
|---|---|---|---|
| 1 | 公務(他に分類されるものを除く) | 78,900人 | 24.6% |
| 2 | 医療・福祉 | 39,600人 | 12.3% |
| 3 | サービス業(他に分類されないもの) | 36,300人 | 11.3% |
| 4 | 教育・学習支援業 | 26,000人 | 8.1% |
| 5 | 学術研究・専門・技術サービス業 | 25,700人 | 8.0% |
| 6 | 製造業 | 15,300人 | 4.8% |
| 7 | 卸売・小売業 | 14,400人 | 4.5% |
| 8 | 運輸業・郵便業 | 12,100人 | 3.8% |
| 9 | 農業・林業 | 10,500人 | 3.3% |
| 9 | 宿泊業・飲食サービス業 | 10,500人 | 3.3% |
| 11 | 建設業 | 9,400人 | 2.9% |
| 12 | 生活関連サービス業・娯楽業 | 9,200人 | 2.9% |
| 13 | 金融業・保険業 | 8,500人 | 2.6% |
| 14 | 情報通信業 | 7,300人 | 2.3% |
| 15 | 不動産業・物品賃貸業 | 7,000人 | 2.2% |
| 16 | 電気・ガス・熱供給・水道業 | 4,900人 | 1.5% |
| 17 | 複合サービス事業 | 1,400人 | 0.4% |
| 18 | 鉱業・採石業・砂利採取業 | 100人 | 0.0% |
※このほか「分類不能の産業」が4,100人。「漁業」は該当数値なし。
※割合は「各産業の推計人数÷前職が公務だった転職就業者32万1,100人」で筆者計算。小数第2位を四捨五入。
出典:総務省「令和4年就業構造基本調査」表14900(統計表ID:0004008279)をもとに筆者作成。
なお、就業構造基本調査は標本調査です。
総務省も、統計表の数値について、分類不能・不詳を含むことや、表章単位未満を四捨五入していることから、総数と内訳の合計は必ずしも一致しないとしています。
3.約4人に1人は転職後も「公務」
まず目につくのが、転職後も「公務」に分類されている人の多さです。
前職が公務だった32万1,100人のうち、転職後も公務だった人は7万8,900人。
全体の24.6%です。
単純計算すると、およそ4人に1人になります。
ただし、これは「同じ職場に残った」という意味ではありません。
今回の統計の対象は、前職を辞めて現在の仕事に就いた「転職就業者」です。
そのため、例えば自治体から別の自治体へ転職した場合など、異なる行政機関への転職も含まれ得ます。
少なくとも政府統計を見る限り、
公務を辞めた人が全員、民間企業へ転職しているわけではない
ことが分かります。
4.公務以外では「医療・福祉」が最も多い
「公務」以外で最も人数が多かったのは、医療・福祉の3万9,600人です。
続いて、
- サービス業(他に分類されないもの):3万6,300人
- 教育・学習支援業:2万6,000人
- 学術研究・専門・技術サービス業:2万5,700人
となっています。
「公務」と「分類不能」を除いた約23万8,100人を分母として筆者が計算すると、この4業種だけで約53.6%になります。
公務以外の産業へ移った人の半数以上が、この4つの産業に分類されている計算です。
ただし、ここでも注意が必要です。
「医療・福祉」や「教育・学習支援業」には、民間企業や民間法人だけではなく、公的な組織も含まれます。
例えば公立学校に転職した人は、勤務先が地方公共団体であっても、産業分類上は「教育・学習支援業」に分類される場合があります。
そのため、
「公務員から民間企業への転職では、医療・福祉が最も多い」
と結論づけることはできません。
5.「学術研究・専門・技術サービス業=コンサル」ではない
転職先として気になるのが、5番目に多い「学術研究・専門・技術サービス業」の2万5,700人です。
この分類には、経営コンサルタント業も含まれています。
一方で、すべてがコンサルタントというわけではありません。
日本標準産業分類では、この分類に、
- 学術・研究機関
- 法律事務所
- 公認会計士・税理士事務所
- 経営コンサルタント業
- デザイン業
- 広告業
- 各種技術サービス
など、幅広い業種が含まれています。
e-Stat「日本標準産業分類 大分類L 学術研究、専門・技術サービス業」
したがって、
「公務員からコンサルへ2万5,700人が転職している」
と読むことはできません。
公務員からコンサルへの転職事例は実際にありますが、政府統計で分かるのは、あくまで「産業」までです。
6.情報通信業への転職は7,300人
もう一つ気になるのが「情報通信業」です。
前職が公務だった32万1,100人のうち、転職後に情報通信業で働いている人は7,300人でした。
全体の2.3%です。
インターネットでは「公務員からIT業界へ転職した」という事例をよく見かけるため、思ったより少ないと感じる人もいるかもしれません。
しかし、ここでは「業界」と「職種」を分けて考える必要があります。
例えばメーカーに転職して社内SEやDX推進を担当した場合、勤務先が製造業であれば、この統計では「製造業」に分類されます。
反対に、IT企業で営業や人事を担当していれば、「情報通信業」に分類されます。
つまり、
「情報通信業への転職者数」と「IT職への転職者数」は別物です。
今回の数字だけを見て、
「公務員からIT職へ転職する人は2.3%しかいない」
と考えるのは適切ではありません。
7.公務員はどんな「職種」に転職しているのか?
ここまで紹介したのは、転職先の「産業」についてのデータです。
では、
- 営業
- コンサルタント
- 経営企画
- 人事
- エンジニア
といった「職種」についてはどうでしょうか。
総務省の就業構造基本調査には、前職と現在の「職業」を比較した表15000があります。
総務省 e-Stat「令和4年就業構造基本調査 表15000」
この表では、
- 管理的職業
- 専門的・技術的職業
- 事務
- 販売
- サービス
などについて、前職と現在の職業を比較できます。
しかし、この表には「前職の産業」という項目がありません。
そのため、
「前職が公務だった人だけを抽出して、現在の職種を見る」
という分析はできません。
政府統計だけでは、残念ながら、
「公務員から法人営業へ何人転職した」
「公務員からコンサルへ何人転職した」
といったところまでは確認できません。
そこで、職種については民間企業が公開しているデータを補助的に見てみます。
ワンキャリアの転職事例では法人営業とコンサルが上位
ワンキャリア転職は、2026年に公務員からの転職事例80件を集計したデータを公開しています。
80件には、公務員から別の公務員への転職11件も含まれています。
転職先職種の上位は次のとおりです。
| 順位 | 転職先職種 | 件数 |
|---|---|---|
| 1 | 法人営業 | 13件 |
| 2 | 戦略コンサルタント | 12件 |
| 3 | 公務員(事務系) | 8件 |
| 4 | 業務プロセスコンサルタント | 5件 |
| 5 | 個人営業 | 3件 |
| 5 | 新規事業企画・事業開発 | 3件 |
| 5 | 公務員(技術系) | 3件 |
| 5 | システムコンサルタント | 3件 |
戦略コンサルタント12件、業務プロセスコンサルタント5件、システムコンサルタント3件を合計すると、コンサル系は20件です。
80件中の25%に当たります。
ただし、この数字には注意が必要です。
これは全国の公務員を無作為に抽出した統計ではなく、ワンキャリアに集まった80件の転職事例です。
そのため、
「公務員の25%がコンサルへ転職している」
という意味ではありません。
転職サービスを利用する人や体験談を投稿する人には、一定の偏りがある可能性があります。
あくまで「実際にどのような職種への転職事例があるのか」を見るための参考データと考えた方がよいでしょう。
JAC Recruitmentでもコンサル・IT・金融などへの転職実績がある
JAC Recruitmentも、国家公務員から別業種へ転職した自社の支援実績を公開しています。
2023年1月から2025年7月の実績では、転職先業界について、
- EMC(電気機器)
- コンサルティング・シンクタンク・事務所
- 建設・不動産
- IT・通信
- 金融
などを挙げています。
ただし、JACの資料では各業界の具体的な人数や、集計対象全体の母数までは公表されていません。
また、国家公務員を対象としたJAC利用者の実績なので、地方公務員を含めた公務員全体の転職傾向を示しているわけではありません。
こちらも、
「公務員からこうした業界への転職事例が実際に存在する」
ことを確認するための補助的なデータとして見るのが適切だと思います。
8.政府統計と民間データから分かること
ここまでのデータを整理すると、公務員の転職についていくつか見えてくることがあります。
まず、政府統計では、前職が「公務」だった転職者32万1,100人のうち、7万8,900人、約24.6%は転職後も「公務」に分類されています。
公務以外では、
- 医療・福祉
- サービス業
- 教育・学習支援業
- 学術研究・専門・技術サービス業
などへの移動が比較的多くなっています。
一方、政府統計だけでは、「法人営業」「コンサルタント」「経営企画」といった具体的な転職後の職種までは分かりません。
民間の転職事例を見ると、法人営業、コンサル、新規事業企画などへの転職例が確認できますが、これらは特定の転職サービスの利用者データです。
公務員全体を代表する統計とは言えません。
そのため、現時点で言えるのは、
「転職先の業界については政府統計からある程度客観的な傾向を確認できる。一方、具体的な職種については公務員に限定した公的統計が乏しく、民間データで補完する必要がある」
ということです。
「おすすめの転職先」と「実際に多い転職先」は分けて考えたい
公務員の転職について検索すると、
「公務員におすすめの転職先○選」
「公務員が転職しやすい業界○選」
といった記事が数多く出てきます。
もちろん、転職先を検討する材料としては役立ちます。
ただし、
- 公務員に向いている
- 公務員が転職しやすい
- 実際に多くの公務員が転職している
というのは、それぞれ別の話です。
今回調べてみても、業界単位では政府統計からある程度実態を確認できましたが、具体的な職種まで分かる公的統計は確認できませんでした。
だからこそ、公務員の転職に関する情報を見るときは、
「その主張の根拠となるデータは何か」
「誰を対象にしたデータなのか」
「母数はいくつなのか」
まで確認することが大切だと思います。
私自身、公務員から民間企業へ転職してみて、公務員のキャリアに関する情報は、個人の体験談や転職会社の意見に偏りやすいと感じています。
もちろん、私自身の経験も一つの事例にすぎません。
このブログでは今後も、私自身の経験は「経験」として書きつつ、客観的なデータがあるものについては、できる限り一次資料まで確認して紹介していきたいと思います。
まとめ
総務省「令和4年就業構造基本調査」を確認すると、2017年10月以降に転職した人のうち、前職が「公務」に分類されていた人は推計32万1,100人でした。
そのうち、転職後も「公務」だった人は7万8,900人、24.6%です。
公務以外では、
- 医療・福祉:3万9,600人
- サービス業:3万6,300人
- 教育・学習支援業:2万6,000人
- 学術研究・専門・技術サービス業:2万5,700人
などが多くなっています。
一方、この統計の「公務」は、公務員という身分そのものを意味するものではありません。
公立病院や公立学校などは、別の産業に分類されます。
また、産業と職種も別物です。
そのため、今回のデータから、
「公務員の○%が民間企業の○○職へ転職している」
とまでは言えません。
公務員の転職に関するデータを見るときは、数字そのものだけでなく、
「その数字が誰を対象にし、何を表しているのか」
まで確認することが重要です。
参考資料
-
総務省統計局「令和4年就業構造基本調査」全国編 表14900(統計表ID:0004008279)
e-Statで統計表を確認する -
総務省統計局「令和4年就業構造基本調査の結果」
総務省統計局のページを確認する -
総務省統計局「令和4年就業構造基本調査の概要」
調査概要を確認する -
総務省「日本標準産業分類 大分類S 公務(他に分類されるものを除く)」
産業分類を確認する -
総務省「令和4年就業構造基本調査」全国編 表15000(統計表ID:0004008284)
職業別の統計表を確認する -
ONE CAREER「公務員から転職する人のリアル」
ONE CAREERの資料を確認する -
JAC Recruitment「国家公務員からの転職」
JAC Recruitmentの資料を確認する


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